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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)740号 決定

抗告人

八潮開発株式会社

右代表者

小林雄之助

右代理人

児玉義史

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は「原決定を取り消す。本件競落を許さない。」との決定を求め、その理由は別紙記載のとおりである。

抗告理由第一点について。本件競売(入札)期日の公告に昭和四九年度の公課(固定資産税、都市計画税)が記載されたことは、本件記録により明らかである。不動産競売期日の公告に公課を記載させる趣旨は、これをあらかじめ知らせることにより、競買希望者に対し不動産の適正な競買価額決定の参考に供するにあるから、公告すべき公課は、競売の年度のそれであることが望ましいが、必ずそうでなければならないとの規定はなく、公告の目的に反しないかぎり、過年度のものでも差支えがない。ところで、本件公告には、昭和四九年度の公課であることを明記してあり、その後本件競売の実施された昭和五一年までに右公課が上昇したとしても、およその見当はつくのであつて、本件不動産の評価を誤らせるほどのことはないから、右公告はその目的に反するものではない。なお、抗告人は右公告にかかる昭和四九年度の公課の額自体も大幅に過少である旨主張するが、その理由のないことは、記録中の租税証明書により明らかである。よつて本件公告における公課記載になんらの違法もない。

同第二点について。不動産競売期日の公告に賃貸借を記載させる趣旨は、前同様、競買希望者に対し、引受けるべき賃貸借の存在、内容を知らせて、不動産の評価の参考とし、競落人にも債務者、所有者にも不測の損失のないようにするにあるから、実在しない賃貸借を公告することは、一般的には、競買価額の低下を来たすこともあり、右の趣旨に反するといわなければならない。しかし、本件記録によれば、本件建物は共同住宅(賃貸マンシヨン)であつて、賃貸借取調べ時には一八名の借室人がおり、その期間はいずれも二年の契約であり、このことは正確に公告されていることが認みられる。そうすると、各室の賃貸借は期間経過後更新されることも終了することもありうることが予測されるし、終了の場合は新たな賃借人に賃貸することになることは本件建物の性質上当然であるから、たとえ、抗告人主張の五名の賃借人が本件競売時すでに退去していたとしても、これを公告したことが、本件建物の評価を誤らせるほどの事由とはならないというべきである。

次に抗告人は、賃借人中一二名につき、賃借条件が変更されており、本件公告は誤りであると主張するが、その具体的な主張立証はないのみならず、本件建物の前記性質から考えると、通常の条件変更(期間延長、賃料増額等)は推測しうるものというべく、前段と同様、競落人に評価誤認を来たすものとは考えられない。

そうすると、抗告人指摘の公告は、かりに抗告人主張の事由があるとしても、いずれもその目的に反するほどの内容の相違はなく、適法である。

そのほか、本件記録を調査しても、本件競落を許すべからざる違法事由は認められない。

よつて本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(瀬戸正二 小堀勇 小川克介)

別紙〈省略〉

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